船橋聖一さんといえば、私にとっては『茜色の空』が印象的でした。あれも学生時代の読んで、50代に再読したことがありました。
月日の差とは恐ろしいもので、50を過ぎて読み返して、若かりし日のあの感動は、失せていました。ちと古いかなあーと思ってしまいました。五十路を越えて、苔が生えてしまったのかもしれません。
で、本作。澤田瞳子さんといえば、時代考証がしっかりしたドラマチックな歴史物の作品が多い、というイメージでしたが、この作品は、舞台が京都の郊外にある、宮様の尼寺です。時は江戸時代、後水尾天皇の皇女が住職の門跡寺院に仕える、青侍の静馬の目を通した短編集です。
なるほど船橋聖一さんっぽい、柔らかな
雰囲気の作風です。
京の公家言葉が、よく聞き取れなくて、
かっこつきの通訳が、ちょっと珍しいかな。
7編の短編に共通するのは、逃げ出したい思いと、赦し と償い かなあ。
雅びな中に うまく事を納める智慧、
年月を経て生まれるのでしょうかときっと。そこに行くまで、どれだけ苦しい時期を経てきたのか、
なかなかに 美しい小品でした。